副腎からのホルモン分泌が減少することによる各種の異常を含む症候群である。病因は原発性(副腎自体が異常)と二次性(他の器官の異常に続いて起こる)に分けられる。原発性副腎皮質機能低下症は副腎の破壊による疾患で、破壊の原因としては自己免疫疾患、感染症、出血、悪性腫瘍などがある。またクッシング症候群の治療に用いる薬物も副腎を破壊することがある。二次性副腎皮質機能低下症では下垂体または視床下部が腫瘍、創傷、炎症などの原因により破壊され、副腎を刺激するホルモンの分泌が低下して、副腎が萎縮する。また医原性クッシング症候群も、症状は一見副腎皮質機能が高まったようにみえるが、副腎自体は萎縮しているので本質的には副腎は機能低下症である。
犬では比較的まれな疾患ではあるが、原発性疾患の発生は幼若から中年(2カ月-9歳齢、平均4.5歳)にかけてみられ、雌(76%)においてよくみられるが、これは犬の免疫介在性疾患の特徴を反映しているものと思われる。犬種、体型による差異はないといわれている。 症状としては、食欲減退、嘔吐、腹痛、体重減少、ぐったりしている、血糖値が下がって急に倒れる、脱水などが代表的である。最初はよくなったり悪くなったりする経過が特徴で、ストレスがかかったときに発症しているが、副腎皮質の90%以上が破壊されてから激しい症状が起こり、平常時でもホルモン不足による症状がみられるようになる。
虚脱(ぐったりしている)で来院する場合も多く、診断を確定してから治療を行うのでは手遅れになるので、ほとんどの場合緊急治療を行いながら検査を行う。すなわち虚脱で動物が来院した場合には直ちに静脈内の点滴の準備をして、採血して血液検査、血糖値や電解質の測定を行う。そして低血糖で副腎皮質機能低下症が疑われたら、副腎を刺激するホルモンを注射して副腎が機能しているかどうかの検査を行う。ただしこの検査結果はすぐには出ないので、治療を通常は進めてしまう。この場合よくみられる異常は脱水と電解質(ナトリウムやカリウム)の異常なので、別に診断が決まっていなくても、それらに対する正しい処置とホルモンの補給を行えば、適切な救命処置になる。しかしながらかなりの集中治療となるので入院は必要であろう。食事や飲水ができるようになり窮地を脱したら、ホルモンの補給を続けて行く。