ノミは人間や動物から血を吸って生きています。そのため、非常に多くのノミが寄生していれば、長期間にわたって多量の血を吸われ、鉄分が不足して貧血になることもあります。ただし、貧血になるほど多くノミが寄生しているというのは、きれい好きな猫としては異常なことで、グルーミングをしなくなる、体調の悪さが第一に考えられ、そちらの方を先に直す必要があるでしょう。そして、環境にノミがいれば、人間も吸血されることがあります。刺されるかどうかについては、個人差もありますし、回りに動物がいるかどうか、すなわちノミのおなかが一杯になっているかどうかも関係するでしょう。猫では、ノミが吸血した部分の皮膚には多かれ少なかれ皮膚病ができます。これは軽いかゆみや発赤程度のものから、激しいかゆみになったり、ぶつぶつの粟粒性皮膚炎という皮膚病ができるものまでさまざまです。この場合激しいかゆみを伴う皮膚病ができた場合には、必ずアレルギーが起こっています。アレルギーはノミの数には関係なく、1匹でも吸血すると、ノミの唾液に対して激しい全身のアレルギー反応が起こります。ノミはまた、条虫(さなだ虫)の蔓延の原因ともなります。これはノミが虫を持っていて、いぬや猫に虫が感染するからです。もし猫の体に1匹のノミがいたとしたら、回りの環境中には100倍のノミがいると思ってください。動物の回りに100匹ものノミは通常みえませんから、このことは信じられないかもしれませんが、実はノミの予備群ともいえる幼虫やさなぎの形で環境中に隠れているのです。雌のノミは1回に20個くらいずつ、一生に数百もの卵を産みますが、それが床に落ちて2-20日で幼虫に発育します。発育場所は、温度と湿度が良好で、しかも人通りなどが少ない隠れた場所で、また餌になる成虫の糞が落ちるところ、というように一定の条件があります。ノミの発育に適した環境条件は、24-32℃、湿度60-80%と、比較的高温多湿の日本の夏はぴったりです。そして10-200日の間に脱皮を3回行い、さなぎになります。さなぎからは1週間たてば成虫が出てきますが、環境によっては1年間じっとしていてそれから成虫になることもあります。ノミは動物や人間の血管を正確にねらって吸血しますが、まず動物の吐く二酸化炭素を感知してたかります。じっと待っていたさなぎが、二酸化炭素に反応して成虫にかえることも可能で、空き家に立ち入ったら急にのみに咬まれたというのは、さなぎからその場でかえった成虫ということもあるのです。さらに成虫自体も、ずっと吸血しないで1年位生きてゆくことも可能です。このようなライフサイクルを理解して、ノミの駆除のための作戦を立てましょう。もう動物の体のノミだけを退治しても仕方がないことはおわかりになったと思います。動物の体についたノミはノミとり櫛でていねいにとってやることも可能です。櫛についたノミは、熱湯につけて殺します。さらに効果的な方法としては、ノミとりシャンプーがあります。このような成虫駆除は同居動物すべてについて行う必要があります。また、ノミとりパウダーやスプレーでノミがつくのが予防できます。使用する薬剤は除虫菊の成分として知られているピレスロイド系が安全です。またこれ以外にも有機リン剤、カルバメート系薬剤が動物用医薬品として市販されています。選択に当たっては必ず獣医師に相談するのがよいでしょう。またノミとり首輪や皮膚滴下式の薬もありますが、シャンプーやパウダーに勝る効果はありません。したがって補助的に使用するのがよいでしょう。とくにノミアレルギーの猫は、ノミ1匹に吸血されてもかゆみや病変はおさまらないので、ノミが吸血すると薬が効く滴下式の薬では、ノミを減らすことはできてもアレルギーの解決にはなりません。次に環境のクリーニングです。猫が決まった寝床を使っているのなら、定期的に清掃します。タオル、毛布類はノミの幼虫の繁殖場所になりやすいので使わないようにします。そして床がカーペットの場合は、毎日徹底的に掃除機をかけます。掃除機のゴミパックは殺ダニ用を使うか、あるいはノミとり首輪の切れ端を入れて使用します。ここで、集中的に行う場所とは、さきに書いた、ノミの成長に適した場所で、しかも動物の体からノミの糞が落ちるところです。人間のベッドでいつも猫が寝ているなら、ベッドの下や、ベッドからいつも飛び降りる場所の床がノミの幼虫の好む場所です。畳の隙間、タンスの隙間など影になったところにはダニ用スプレーを散布します。またダニ用パウダーの散布もよいでしょう。これらの製品は家庭用として売られているものですが、動物への危険性を必ず専門家に相談してから使うようにしてください。薫煙剤も家の中を隅々まで薬を行きわたらせる効果が高いのですが、現在のところ、ノミの卵やさなぎに効果的な薬はないようです。また光でノミを集めるノミトラップは成虫を減らすのには効果があります。アメリカでは昆虫成長阻害薬(インセクトグロースレギュレータ)のスプレーや散布薬がすでに売られていて、わが国でも近く使えるようになるものと思われます。これは安全で効果の高い薬剤ですが、これでも卵やさなぎには効果がなく、幼虫の時期で成長を止めてしまうものです。したがって、掃除機によるクリーニングはこれからも重要な駆除法でしょう。
環境クリーニングの要点