JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

猫の病気かゆみ

かゆみというのは掻きたくなるような不快な感覚のことです。
人間ならばかゆいという感覚がよくわかって、しかもどこがどのくらいかゆいか、医師に正確に伝えることが可能ですが、動物はそれを訴えることができません。したがって、飼い主のみなさんが、「猫が掻いている」ということを発見して、おそらくかゆみがあるだろうと判断して病院に連れて行くことになります。ここが根本的に医学と獣医学の違うところなのです。すなわち、動物が掻く動作をしたとしても、本当にかゆみで掻いているのか、それともその他の不快な感覚(そこをやけどしてひりひりするなど)を取り払おうとして掻いているのか、一見わからないということです。したがって、猫のかゆみの原因を診断するには、ちょうど赤ん坊のかゆみを解決するように、難しい問題がたくさんあります。

かゆみを起こす原因はたくさんあります。したがって、原因をつきとめて、それを除くことが本当の治療です。かゆみ止めの薬を与えるだけでは本当の治療ではありません(もちろん狂ったようにかきむしっている場合にはかゆみ止めを与えることもありますが)。原因の究明のためには、それが皮膚の病気なのか、全身の病気から皮膚がかゆいのかを鑑別しなくてはなりません。そのために、獣医師は数々の質問をすることがありますので、正しく答えられるようにしておくことが大切です。この中で、1)本当にかゆいのか、2)どのような皮膚病がみられるのか、3)どこがかゆいのか、4)他の動物や人間にかゆみはあるか、5)体の他の部分は悪くないか、というのが基本的に必要な情報です。表に示した質問事項に答えられるようにしてから病院に行きましょう。獣医師は、これらの問診に加え、皮膚にどのような変化(病変)がみられるか、皮膚のどの部分がかゆいか、寄生虫はいるかなどの情報を総合して診断を進めます。

皮膚の病気でかゆみを伴うものとして、外部寄生虫によるもの、かびによるもの、細菌によるものなど感染症がよくあります。感染症はとくに抵抗力のない若い猫にはよくみられます。外部寄生虫としてはカイセン、耳ダニ、ノミなどがあります。これらは、皮膚の一部を掻きとって検査することでよく発見されます。ノミの場合は、背中にぶつぶつができること、ノミがいなくても黒い糞がみられることでよくわかります。毛穴の中に寄生するデモデックス(ニキビダニ)という寄生虫も、皮膚を強く掻きとって検査します。また毛に感染するカビは皮膚糸状菌(ひふしじょうきん)といって、毛を抜いて顕微鏡で検査したり、カビの培養を行うとわかります。

感染症以外ではアレルギーがあります。猫ではアトピーという花粉症のような病気は比較的少ないのですが、食物アレルギーが多くみられます。頭からくび、あるいは全身に激しいかゆみがでて、ひどくかきむしるのが特徴です。この場合、最初に皮膚病があるのではなく、いきなり掻きはじめて、そのあと激しい皮膚の損傷になるのが特徴です。ノミの場合も、ノミ自身による病気というより、アレルギーでかゆみがでることが主体でしょう。したがって、ノミが1匹でもいればかゆみは出るものです。しかし、特徴的なぶつぶつがでるので、診断は比較的容易です。また蚊に刺されると、アレルギーで耳に同様のぶつぶつができてかゆくなることがあります。

アレルギー以外でも全身の病気から皮膚にかゆみがでることがあります。そういった場合、何にもないところをいきなり掻き出す場合も、何か皮膚に変化があってから掻き出す場合もあります。この場合全身の病気を鑑別するのに、血液検査、血液化学検査、レントゲン検査などの精密検査が必要になるかもしれません。また、皮膚の組織をとって顕微鏡で検査する生検を行う場合もあります。これらの病気には、腎臓病、肝臓病、糖尿病、栄養障害などに加え、腫瘍(しゅよう)、自己免疫疾患や精神的な病気まで広く含まれます。
皮膚病では診断にも治療にも根気が必要です。場合によっては、家中のノミの駆除を行ったり、猫用の特別食を家で調理したりすることが必要になるかもしれません。それから、家庭内で勝手に薬を与えることは絶対にやめてください。人間用の薬が猫には効かないばかりか有害なこともあります。また動物病院以外でペット用の薬を買うのもやめた方がよいでしょう。診断をつけてから治療する、これが今日の獣医医療の基本です。

病院に行くかどうかの判断(1つでもあれば獣医師に相談を)

  • 激しく掻いている
  • 同居の動物も掻いている
  • 同居の人間もかゆい
  • 元気や食欲に変化がある
  • 飲水量が多い
  • 性格に変化があり、狂ったように掻く
  • 掻きむしって激しい傷がある、出血がある
  • 皮膚に明らかな病変がある
  • のみがいる
  • 薬物中毒の可能性がある
  • 何か薬物が皮膚についた可能性がある
  • 家で薬を飲ませた
  • 最近食事を変えた
  • いつも特定の季節にかゆくなる

皮膚病チェックリスト-病院で聞かれたら答えられますか

  • 皮膚にこれまでどんな変化がありましたか?
  • はじめて見られたのはいつですか?
  • 発生は急でしたか、徐々でしたか?
  • はじめて見られたのはどんな変化でしたか?
  • 最初に変化が見られたのは、体のどの部分でしたか?
  • この動物は生まれてからずっとこの地域に住んでいますか?
  • 飼っているのは屋内、屋外、両方のどれですか?
  • 家の中の飼育環境は? 動物専用のベッドですか? どこで寝ていますか?
  • 家の外の環境は? 芝生、草木、その他どんなものがありますか?
  • 皮膚病はずっとつづいていますか、たまに直ったり再発したりしますか?
  • 皮膚病の悪化と季節は関係あるようですか? もしそうならば説明してください
  • 皮膚や被毛を過度になめたり、噛んだり、擦ったり、掻いたりしますか?
  • とくに体の一部分を無理になめたり、噛んだり、擦ったり、掻いたりしますか?もしそうならば説明してください
  • 最初に気が付いたのはかゆみですか、それとも皮膚病があってから掻きだしたのですか?
  • 耳の病気は今までありましたか? もしそうならば説明してください
  • 他のペットを飼っていますか?
  • 他の同居ペットに同様の病気が見られますか?
  • 近所のペットに同様の病気が見られますか?
  • この動物の親兄弟などの家族に同様の病気が見られますか?
  • この動物に皮膚病が出てから、同居の人間に皮膚病が見られましたか?
  • この動物にはノミがいますか?
  • 家で飼っている動物にはノミがいますか?
  • ノミを退治すると皮膚も良くなるようでしたか?
  • これまでに受けた治療を説明してください。・薬品名、量、期間。
  • 治療を受けてよくなりましたか?
  • どの薬が一番効いたようでしたか?
  • 現在薬を使っていますか? 最後に使ったのはいつですか?
  • 家庭薬を何か使いましたか?
  • これまでに皮膚病とは関係ない病気をしましたか?
  • そのような病気で現在薬を使っていますか?
  • 皮膚病の発生と一緒に、健康状態、行動で変わったことはありますか?
  • 食事は何を食べていますか? メーカー、混合割合など。