JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

猫の病気脱毛

脱毛とは本来毛があるべきところの皮膚で、毛が部分的あるいは完全に、薄くなったりなくなることをいいます。脱毛を大きく分けると、炎症などの皮膚病変を伴って毛がなくなる場合と、炎症などは何もなくただ毛が薄くなったりなくなったりするものがあります。また、脱毛の原因として、毛が抜けてしまう病気、毛が生えなくなる病気に加え、かゆみのために、あるいは心理的な原因のために咬んだりなめたりして毛が抜ける(切れる)脱毛症もあります。一般に皮膚病があればその部分の毛がなくなることは多いので、それらについては皮膚病の診断を進めます。

猫には長毛種と短毛種の他に、遺伝的に毛のない品種も存在します。代表的なものはスフィンクスです。またレックスという猫も遺伝的に毛が少なく、さらにシャム猫の一部でも毛が少ないものがあります。毛は皮膚の毛包という所で作られますが、毛の成長にはサイクルがあります。季節によって毛はよく成長し、生え代わります。冬から初夏にかけてと、秋から冬にかけて毛が生え代わるようで、このときに古い毛はよく抜け落ちます。毛が成長するのはこのような生え代わりの季節の数週間で、それ以外は長い休止期という成長を休んでいる時期になります。したがって、この成長期に入ることができない病気になれば一度抜けた毛は生えてきませんし、あるいは成長期が来るまでの間に何らかの原因で毛が抜けてしまえば(あるいは毎日猫が自分で抜いてしまえば)、どちらの場合も脱毛になります。

脱毛の原因として、炎症を伴うものには細菌、真菌(かび)、外部寄生虫、アレルギー、自己免疫疾患、腫瘍などがあります。また当初炎症を伴わなくてもかゆみを伴うものとして、やはりアレルギーが考えられます。そして一部の細菌や真菌による病気も、全く炎症を伴わないことがあるので、これらについても診断を行う必要があります。そして心因性脱毛と呼れるなめて毛を抜いてしまう脱毛症、また猫ではまれですがホルモン異常(内分泌疾患)もあります。さらに栄養性、ストレス性、代謝性など様々な原因が考えられます。

猫で多い脱毛のパターンは左右対称に毛が薄くなるものです。とくに内股から腹部にかけてや、わき腹などが左右とも冒されます。これは昔は内分泌性脱毛症と呼んでいたのですが、現在では様々な原因でこれが発生することがわかったため、対称性脱毛症と呼んでいます。猫はかゆみに対して激しくかく場合と、なめる場合があります。掻いた場合には激しい炎症が起こったりするのですぐにわかるのですが、かゆいためになめているというのはなかなか気付かれないことが多いのです。なめると、猫の舌が特にざらざらしていることから、毛が折れたり抜けたりします。原因としては、アトピー、食物アレルギー、ノミアレルギー、ツメダニ症、耳疥癬、腸内寄生虫アレルギーなど、かゆみが起こる病気が含まれます。また感染症として、細菌感染、皮膚糸状菌症、ニキビダニ症も含まれます。
さらに避妊、去勢済みの猫で腹や内股を中心に脱毛し、性ホルモンの失調が原因とされるものも存在するようです。さらに糖尿病、クッシング症候群(まれ)、甲状腺機能低下症(まれ)などの代謝・内分泌疾患で発生することもあります。 また、心因性脱毛症といって、何か気に入らないことがあって、毛をなめたり、抜いたりして脱毛を作ってしまう場合もあります。その場合左右対称に脱毛することもあれば、一部分だけを強くなめて、皮膚に傷や炎症を起こすこともあります。

かゆみがあってなめることによって、あるいは心理的な要因によってなめて毛が抜けてしまうのと、毛包に異常が起こって(内分性、代謝性、遺伝性)本当に脱毛しているのとの鑑別には毛を検査するとわかります。なめたり切ったりしている場合には、顕微鏡で毛先をみるとぷっつり切れています。またエリザベスカラーをつけてなめられないようにして、それ以上脱毛しなくなれば、自分でなめているのが原因でしょう。

それからの診断は、かゆみがあれば、アレルギー(ノミや食事がほとんど)、感染症、外部寄生虫症などについて検討します。またかゆみがなくてなめている場合には、最近ストレスとなることがなかったか、同居の動物がいなくなったりしていないか、など行動学的な診断を進めることがあります。さらに原因がわからない場合には皮膚生検を行ったり、内分泌の検査を行ったりします。