鼻の頭や口の中の粘膜が白い、運動すると疲れやすいという症状がみられたら貧血が疑われます。貧血とは、血液検査で赤血球数、血色素濃度、ヘマトクリットが低下している状態を指しています。貧血がみられた場合には、その原因を究明することが治療には不可欠です。まずもって、赤血球が壊されているのか、失われているのか、あるいは作られていないのかを区別することが重要です。また猫の貧血にはネコ白血病ウイルス(FeLV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)感染が関係していることが多いので、ウイルス検査も行います。
貧血の原因としては、赤血球を作る骨髄の機能には問題がない場合、出血によるもの、溶血(赤血球が破壊される)によるものがあります。出血ならば、どこかに出血がみられるはずです。また腸の中で出血があれば便がタール状の色をしていたり、赤い色をしていたりします。また膀胱などで出血していれば尿に赤い色がついて、尿の顕微鏡検査では尿の中に赤血球がみえるはずです。そのような出血の所見がなければ溶血と考えられます。溶血の原因としては、ヘモバルトネラ、ハインツ小体、FeLV感染による免疫性溶血性貧血などがよくあるものです。 ヘモバルトネラ症では、ヘモバルトネラという小さな病原体が猫の赤血球に寄生して、その赤血球が体内で破壊されるために貧血が起こります。健康な猫ではふつう貧血は起こりませんが、ストレスやウイルス感染(FeLVやFIV)が加わると急に貧血になります。抗生物質でヘモバルトネラを退治すれば通常は回復がみられますが、ヘモバルトネラ症の発症要因となったものを探すことが重要です。
ハインツ小体性溶血性貧血の場合には、タマネギ、ニンニクなどの植物、あるいはアスピリン、アセトアミノフェンのような人間の風邪薬の成分で、赤血球の中のヘモグロビンが変性してハインツ小体が作られます。ハインツ小体は赤血球の表面から飛び出しているため、赤血球が血管内を通過するときに壊れ貧血になります。半生フードに入っているプロピレングリコールもハインツ小体を作らせる効果があるので、猫には与えない方がよいでしょう。原因が除かれれば、赤血球を作る能力には問題がないので徐々に治ります。
赤血球の生産が低下している貧血としては、軽度のものであれば、慢性炎症による貧血、慢性腎不全による貧血、あるいは慢性の小量づつの出血などによる鉄の欠乏があります。これらでは骨髄における赤血球生産が若干低下します。慢性炎症による貧血の場合には炎症の治療を優先させます。また慢性腎不全の場合には、腎不全の治療とともに、エリスロポイエチンという造血ホルモンと鉄剤の投与を行います。鉄の欠乏の場合には、まず慢性の出血があればそれを治し、ノミや寄生虫が多く寄生している場合には駆除を行って、鉄剤の投与が必要です。
また高度の貧血では、骨髄で赤血球生産が全く止まってしまったものが考えられます。これには白血病などの腫瘍細胞が骨髄を占領してしまった場合、赤血球を作る細胞がなくなってしまった場合、あるいは骨髄自体が全くなくなってしまった場合があります。これらの正しい鑑別のためには骨髄の検査が必要です。
このように貧血にはかなりの原因が存在し、それぞれ治療法、あるいは治療可能かどうかも異なります。また原因はなんであれ、高度の貧血の場合は輸血を行うこともあります。