様々な原因で急に尿を作れなくなったために体の中に老廃物がたまり、全身の病気となるものが急性腎不全で、原因としては大量の出血や心臓の病気などで、腎臓に血液が行かなくなった場合、感染や中毒で腎臓自体が急に壊されたり炎症が起こった場合、腎臓より後ろの尿の通り道がつまったり、交通事故などで膀胱が破裂して、尿を体外に出せなくなった場合がある。犬で比較的多い中毒の原因としては自動車用の不凍液(エチレングリコール)をなめてしまった場合である。また感染症としては夏の終わりから秋にかけて静岡県などの山中で感染するレプトスピラ、膀胱炎から腎臓に細菌感染が波及する腎盂(じんう)腎炎がある。また急性腎不全はそのまま長期化して慢性腎不全につながることも多い。慢性腎不全は原因は何であれ、腎臓の破壊が治らないものになって、機能の3/4が失われてしまった状態である。
急激に元気食欲がなくなり嘔吐が起こる。尿が出なくなるのが特徴であるが、腎不全の時期によっては多く尿が出ることもあるので、必ずしも無尿だけが特徴的ではない。検査では腎臓が動いていないという証拠のほかに、原因によっては心臓や血液の問題、あるいは腎臓より後ろの尿路閉塞などの問題が明らかになることがある。慢性腎不全は多飲多尿、貧血、やせる、被毛がつやを失うなどが特徴で、これに加えて慢性の食欲不振、嘔吐などが加わる。
急性腎不全では、腎臓が機能を回復するように原因を除き、点滴を続けることが治療の主体である。急性の段階では腎臓の破壊は永続的ではなく、徐々に回復することが多いが、もちろん腎臓や全身への障害がきわめて強ければ死亡することもある。慢性腎不全では点滴と正しい栄養補給、貧血の治療などが主体であるが、本来治るものではないので、進行を遅らせることだけが目的である。慢性腎不全で尿が作られなくなるともはや回復は望めない。また老犬で心臓病を一緒に持っているものなどでは、輸液療法も難しく、非常に治療が困難になる。中年以降の犬では定期的に健康診断を行って、尿検査で比重が1.030をいつも下回っていたら、他の検査でひっかからなくとも、腎臓病が進んでいるものと考えて、良質の蛋白を適切な量含み、リンなどを制限した食事療法を行うのがよい。