この病気は、甲状腺が腫れて大きくなり、甲状腺ホルモンが過剰に出されることによって起こる全身の病気です。1980年頃よりアメリカの大都市を中心に多く発生がみられるようになり、現在では猫のホルモンの病気では最も多いものとされています。
甲状腺ホルモンは体のほとんどの組織のに作用して、代謝を盛んにする働きがあります。これらの効果としてエネルギーが生産され、体温も上がり、心臓の機能も高まり、要するに一見病気とは無縁の健康な方向に体が変化するのです。したがって家庭内では猫はよく食べ、活発になるので、健康診断などまず必要ないと思われてしまうのも不思議なことではありません。しかしながら、体の中がそれほど活性化すると、早く老化して燃え尽きたようになってしまうのが、この病気の本質です。本当に末期では、燃え尽きたようになって死んでしまう病気です。したがって、早期に発見して、異常な活性化をくい止める必要があります。
この病気はとくに10歳以上に集中してみられます。典型的な症状は、食欲の増加、体重減少、活動性が高まる、おちつきがない、性格が激しくなったなどです。また進行したものでは、多尿、嘔吐、下痢、筋肉の衰弱、毛の光沢がなくなる、早い心拍なども観察されます。しかし進行したものでの症状以外、猫を病院に連れて行く理由にはあまりならないことがわかります。猫がよく食べるということは、満足であっても問題になりませんし、しかも体重減少に関しては、老猫でもあるし、よく食べるがさほど太らないと考えれば病気とは考えないでしょう。活動性が高まるということは、よく甘えるようになった、よく遊ぶようになったと考えれば、やはり病院に行く理由にはなりません。
しかしながら、一見健康にみえても病気は進行していることがあるのです。そして健康にみえるときに手を打っておけば、比較的簡単に治療できるかもしれません。実際に10歳以上の老猫を、症状に関係なく無差別に検査してみると、1割以上はこの病気を持っていることがわかるのです。したがって、これからは猫は健康にみえるから病院には行かないというのではなく、必ず年1回、あるいは中年以降では年2回の健康診断を心がけるのがよいでしょう。人間にとっては1年でも、猫は4-5年分の年をとるのです。
10歳以上の老猫で、痩せていて、食欲があり、性格が荒くなった、あるいは異常に甘えるようになった、眼がぱっちり大きい、という条件が揃っていれば、たとえ病気にはみえなくても、まず甲状腺機能亢進症が疑われます。そのような猫では、身体検査に続き、血液検査、血液化学検査、尿検査X線検査をまず行い、他の疾患や全身の状態について広く情報を集めます。よく食べるけれど痩せているという場合、もう一つ重要な病気として糖尿病がありますし、また甲状腺の病気では肝臓に異常がでたり、あるいは心臓が異常に大きくなったりすることもあるので、このように広く検査を行う必要があるのです。次にT4と呼ばれる甲状腺ホルモンを測定して高い値がみられた場合、甲状腺機能亢進症と確定診断されます。診断後には、薬物を使って甲状腺ホルモンを下げて全身の状態をおちつかせ、手術ができるようならば、大きくなった甲状腺はたいてい腫瘍なので、それ以上大きくならないようにとってしまいます。