人間やサルのエイズウイルスと同類のウイルスによっておこる様々な慢性疾患が特徴です。病気が進行して末期にはエイズと考えられる症状を出す猫もありますが、人間のエイズとは似ていても別の病気であり、ウイルスも別のものです。人間のエイズウイルスが猫に感染したり、猫のこのウイルスが人間や犬に感染することもありません。ウイルスは猫同士の接触により感染するようで、ほとんどの場合唾液を介して咬み傷から感染する模様です。感染源はおそらく屋外を自由に歩き回っている猫のようです。これまでの調査では、外に出ない猫ではまず感染が見つかっていませんが、わが国では外に出ている猫が多く、しかも野良猫・捨て猫を含めて猫の密度が高いので、おそらく世界中でも異常に高い感染率ではないかと思われます。感染すると最初の1年間位は、リンパ腺が腫れたり、軽い下痢が続いたり、細菌感染などを繰り返しますが、そのうち症状がなくなることが多く、外見上はふつうの猫と区別がつきません。それから数年してだんだん慢性の病気が進行します。病状の進んだ猫で一番多い症状は口内炎です。口の中に潰瘍ができたり、歯肉が盛り上がったりして、口臭、よだれが目立ち、餌をたべる時に痛がります。また何でもない傷が化膿したり、眼や鼻からいつも分泌液を出していたり、あるいはやせ細ったり下痢や熱が続いたりすることがよくあり、病気に対する抵抗力の減退が特徴です。感染していながらかなり長生きするものが多いのも事実です。ただいろいろな病気が起こるので、統計的には感染していない猫よりも死亡率が高く、平均寿命も短いでしょう。このウイルスに感染していること=エイズではないのです。発症していないものは無症状キャリアーと呼び、発病猫とは区別しています。軽い発病だけがみられるものも多くあり、このようなものはエイズ関連症候群と呼ばれます。病気がひどくなって、いわゆるエイズの基準を満たすもののみがエイズと診断されるので、それほど比率は高くありません。エイズの時期に入る前ならば、現在の状態次第では治療法も考えられます。したがって救いが全くないわけではないのです。ただし、ウイルス自体を攻撃する治療法は現在のところありません。まず、現在発病していなければ、小さな問題が生じるたびに正しい対症療法を行ってゆけば、これから先かなり生きられるのではないかと思われます。また発病していても、症状にもよりますが、抗生物質などで治療可能のものもあり、実際に治療によってその場は命をとりとめる場合もあるのです。猫免疫不全ウイルス感染症は急性の感染症ではないので、若い猫が急に死亡するようなことはあまりありません。感染しているかどうかは血液の検査でわかります。
ワクチンがありますが、効果については100%確実とはいえないし、家の外にいる健康な感染猫は強力なウイルスを持っていることが多いので、猫を外に出さないことだけが100%完全といえる予防法です。けんかの傷からの感染が多いので、家の回りに猫がそれほど多くなく、けんかをしない猫ならば少しはリスクは低いでしょう。猫のけんかは、縄張り争いや雌をめぐっての争いなので、やはり猫が多ければけんかになります。感染した猫は家の中でストレスを避けた飼い方をすれば、寿命も延びるかもしれません。感染した猫と感染していない猫がいる場合には、できるだけ接触は避けるべきです。