JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

猫の病気猫ウイルス性鼻気管炎(FVR)

症状

猫ウイルス性鼻気管炎の原因ウイルスは猫のヘルペスウイルスで、感染猫のくしゃみ、分泌液などから感染します。このウイルスにかかると3-4日で急に元気・食欲がなくなり、熱も上がります。そして鼻水が出るようになり、くしゃみも激しくなります。目も涙眼になって、結膜炎がおこります。よだれを出す猫もいます。症状が始まってから3-4日で一番病気は激しくなり、通常はその後1週間位で回復します。子猫ではものが食べられずに脱水や衰弱が激しいと生命に危険もあります。また抵抗力がなくなり、細菌感染が一緒におこると、症状が激しくなったり病気が長引くこともあります。病院では分泌液で汚れた眼や鼻をきれいにして、脱水や栄養不良があればそれを治し、細菌感染を予防・治療して、猫が自分で病気を治して行くのを助けます。一般に急性の経過で病気が終わるのは、猫にウイルスに対する免疫ができるからです。ところがこの免疫がくせ者です。体の中に免疫ができると通常はウイルスは殺されてしまうのですが、ヘルペスウイルスはなかなか賢いウイルスで、神経細胞の中に隠れてしまうのです。人間でもヘルペスウイルスはこのような悪さをして、体の中に居ついてしまうことがよく知られています。隠れてしまったウイルスは、時間が経って猫の免疫が下がってきたときに、あるいは猫がストレスを受けたときに、またのそのそと出てくるのです。一度免疫ができている猫ではすぐにまた免疫が上がるので、このとき症状が出ることはないのですが、困ったことにウイルスを体外に出して、他の猫に移してしまうことがあるのです。ここで症状が出ないということは、外見上どの猫がウイルスを出しているかはわからないということです。ですから、一度この病気にかかった猫というのは、免疫も持っているが、ウイルスも持っている、すなわち感染源になるということを知っておく必要があります。

予防

予防の原則は感染源との接触を絶つこと、ワクチンで予防することです。くしゃみ・鼻水・涙眼という症状が出ている猫ならば一目で感染源とわかりますが、問題は前に述べた一度かかって後から無症状のままウイルスを放出するものです。昔はこのウイルスのワクチンがなかったわけですから、現在中年から老年の猫というのは、ほとんどが一度はかかったものと考えられ、その多くがたまにウイルスを放出している可能性があります。
母親が以前この病気にかかったことがあると免疫ができているので、子猫にはミルクを介して親譲りの免疫が伝えられます。したがって子猫は大体離乳までくらいは病気から守られますが、それ以上長続きするものでもありません。離乳の頃母親は、それまでの子育ての疲れがどっと出て、ストレスのたまった状態になります。そうするとウイルスはこの時とばかりに活動をはじめ、鼻の粘膜から外に出てきます。するとちょうど無防備になった子猫にウイルスは移ってしまうのです。このようにしてウイルスは猫から猫へ渡り歩き、猫の集団内にすっかり定着してしまうのです。このように、感染源がはっきりわからない場合、あるいは母と子のようにきわめて近い距離にある場合、感染源を絶つというのは現実的ではありません。そこで、ワクチンでこれから生まれてくる子猫をすべて守って、ウイルスの行き場をなくしてしまおうというのが、新しい予防の考え方です。多くのウイルスというのは、動物の体を離れてしまえば比較的弱いもので、行き場がなくなれば自然に消滅してしまいます。現にこのワクチンが最初に開発されたアメリカでは、動物病院に来る猫のほぼ100%ワクチン接種を受け、最近ではこの病気を見ることもほとんどなくなりました。効果的にウイルスを撲滅するためには、みんなが一致団結して行動を起こすことが必要です。すなわち1頭1頭の免疫ではなく、世界中の猫の集団の免疫を高め、ウイルスが逃げて行く所をなくすことが必要なのです。