JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

猫の病気呼吸が困難

呼吸が苦しい状態、うまく呼吸ができない状態には、大別して2つの種類があります。まずいわゆる喉がつまった状態です。これは動物ではまれなことではありますが、猫が異物や、刺激性のものを飲んで、気管の入り口付近につまった場合が考えられます。また、アレルギー反応で喉の奥が激しく腫れた場合にも喉がつまったのと同じことになります。この状態を示すサインとしては、急な呼吸困難、唇や舌がブルーになるチアノーゼ、倒れるなどがあります。何かで遊んでいて急になったような場合は、何かを飲み込んだ可能性が高いでしょう。この場合の呼吸のパターンとしては、息を吸い込みたいのに吸い込めない状態、すなわち長くてゆっくりした努力を伴う呼吸が特徴です。まず応急処置として、口を開けて舌を前に引っ張ります。そして喉のあたりの異物を探します。もし異物が見つかったなら、それを取り出します。動物は横にして寝かせ、胸部の肋骨の上から手のひらで、強く3-4回圧迫します。呼吸が止まっている場合には、舌を十分引っぱり出したままにして、さらに鼻の孔から人工呼吸を行います。猫の鼻に人間の口をつけて、1分間15回息を吹き込みます。心臓が止まっていたら同時に心臓のマッサージを行います。肘の後ろで肋骨の上から心臓をつかむようにして、1分間最低60回は圧迫します。喉に異物などがみられず、それでも深く長い息で呼吸困難を示している場合には、気管の中に異物がある可能性が考えられます。これを取り除くためには気管の切開や、内視鏡(ファイバースコープ)が必要になるので、急いで病院に行くのがベストでしょう。 もう1つのタイプの呼吸困難は、早くて浅い呼吸です。胸を激しく打って、肋骨の骨折などで痛くて胸を膨らませられない状態、胸の中に水(胸水)や空気(気胸)がたまって肺が膨らめない状態、気管支や肺の中の肺胞などの細い気道内に水や分泌物が溜まって、空気が肺の中に入って行けない状態などが考えられます。さらに交通事故などで横隔膜(胸と腹を分けている筋肉の膜)が破裂して胃や消化管が胸の中に飛び出している時(横隔膜ヘルニア)も肺が圧迫されてこのような苦しい呼吸になります。したがって、高いところからの落下や交通事故があって、猫の呼吸が急に苦しくなったのなら、まず肋骨骨折、気胸、横隔膜ヘルニアが疑われます。できれば酸素をかがせて呼吸を楽にしてやりたいものですが、できるだけ動かさないようにして、速やかに病院に行くのがベストでしょう。徐々に元気や食欲がなくなり、呼吸がまず荒くなって、そして早くて浅い呼吸困難になった場合には、胸の中の病気が考えられます。すなわち、胸水がたまる病気や肺炎です。このような病気では熱も高くなることがあります。このような場合にはやはりすぐ病院にゆくべきですが、それより前のひどくならないうちに、病院に行っておくべきでしょう。おぼれた場合にも呼吸ができなくなります。これは水が気管や肺の中に入ってしまい、気道が塞がれてしまうからです。動物は普通泳げるものですが、子猫やけがをしている猫、あるいは疲れてしまったときにはおぼれることがあります。またプラスティックの浴槽の中に落ちて、爪が立たないためにおぼれることもあります。まず鼻の中、口の中をみて、異物があれば取り除きます。猫の後ろ足を持って数秒間逆さまにつるして上下に振り、口や鼻の中の水を出します。次に鼻に人間の口をつけて、人工呼吸を行います。また心臓が止まっている場合には、前回に書いた方法で心臓マッサージを行います。火事現場から助けられた猫で煙を吸っている場合にも呼吸困難がみられることがあります。通常、激しいせきがみられ、また舌がブルー色になるチアノーゼもみられるかもしれません。さらにぐったりしていたり、意識がはっきりしないこともあります。まず、新鮮な酸素をかがせて、前回紹介したショックの応急処置を行う必要があります。酸素がない場合でも、湿気を含んだ空気を吸わせてやることが助けになります。これには家庭にある加湿器の蒸気をかがせること、あるいはそれもなければ、シャワーでお湯を出してその湯気をかがせてやることです。治療には病院に必ず連れて行く必要があります。ただし治療を開始できたとしても、2-3日のうちに重い肺炎を発病することもあります。