JBVP一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
Japanese Board of Veterinary Practitioners

日本臨床獣医学フォーラム設立のお知らせ

1998年4月 設立時フォーラム代表(現名誉会長)石田 卓夫

 現代の伴侶動物医療に求められる内容は、既存の獣医学に比べるとさらに拡大したものになっています。これは、単に病気の予防と治療にとどまらず、動物選びに関するカウンセリング、動物行動学、老齢動物医療、ペットロスサポート、社会への啓蒙など、人と伴侶動物(コンパニオンアニマル)が幸せに、美しく、快適に暮らすためのすべての項目を含むものです。これが「人と動物の絆」を大切にする社会のニーズであり、それに応えるためにわれわれは勉強を続け、その成果を社会に還元しなくてはなりません。わが国においても、動物を家族の一員と考える人は飼い主の70%を越えるようになり、獣医学はこのような社会の変遷に追従することが望まれます。すなわち、われわれの仕事は、「人と動物の絆」を護り、讃え、推進することであり、このような世界的概念をわが国の文化に即した形で発展させることも獣医師の使命と思われます。われわれは科学をもってこの仕事に当たることができる専門集団であり、その知識、経験、技術などを生かし動物と暮らす人々に奉仕し、幸せで豊かな生活を築き、社会への貢献を目指します。 本会の趣旨にご理解を頂き、ご指導ご協力を賜りますよう、何卒お願い申し上げます。

日本臨床獣医学フォーラム設立趣意書から

フォーラム設立の理念と目的

充実した継続教育と真摯な科学的議論を通じて、人と動物の絆を大切にする社会が求める獣医師となり、人と動物の幸せのための伴侶動物医学を実践し発展させることで、社会に貢献する。

会員制度

会員制度は特に設けないが、「JBVPレクチャーシリーズ」および、「年次大会」「地区大会」開催に対し、各種の情報提供を行う。企業賛助会員制度については別に定める。

事務局

日本臨床獣医学フォーラム事務局:〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-21-5 ミサワビル2F
TEL:03-6457-7808 FAX:03-6457-7803 E-mail:honbu@jbvp.org

事業計画

1.継続教育プログラム
「JBVPレクチャーシリーズ」の開催:1998年5月より毎週水曜日夜、東京都内において、年間約40回の獣医学関連の継続教育を開催。講義内容は毎年適宜更新し現在までに臨床病理学、心臓病学、呼吸器病学、ウエルネス、超音波診断、神経病学、エキゾチック学。輸液学、外科学、神経病学、放射線学、歯科学、眼科 学、麻酔学、循環器病学の講義を行い毎回100名前後の参加者を集めている。
2. インターネットホームページによる情報提供
日本臨床獣医学フォーラムホームページを開設し、一般飼い主向けの獣医学情報の提供および相談コーナー、会員獣医師向けの最新学術情報提供、症例検討コーナー、各種獣医関連商品の情報提供などを行う。情報提供に当たっては、ウェブページ閲覧方式と、メーリングリストによる情報送付方式を併用する。
3. 年次大会の開催
1999年、第一回年次大会を東京都千代田区東京国際フォーラムにて、第2回~第5回年次大会は千葉県浦安市舞浜ホテルヒルトンで開催した。参加者数は約2000名で一般市民、獣医師、病院スタッフを一同に集め、関連企業展示、市民講座、内外講師による学術セミナー、獣医師による 症例検討会などのプログラムを行った。
4. 地区大会の開催
北海道(札幌)・東北(仙台)・京都・九州(福岡)の4箇所で、年1回開催。
5. 市民講座の開催
飼い主向けセミナー(動物選び、予防、食事、しつけなど)による正しい獣医学の啓発を、年次大会、地区大会の中で行う。
6. 出版
年次大会プロシーディング他、会報、学術ビデオなどを制作。
7. 他学会への協賛
他学会に積極的に協力し、情報交換、人的交流につとめる。

「人と動物の絆」を中心とした伴侶動物医療とは?

2008年3月1日 公式ステートメント 設立時フォーラム代表(現名誉会長)石田 卓夫

 これまで獣医界の中では、獣医学そのもの、あるいは「学術」と呼ばれるものがまず第一にあって、伴侶動物獣医学においてはそれとは別に「人と動物の絆」すなわち「ヒューマンアニマルボンド」というのも大切な認識であるというように、あるいはそれは確かに重要ではあるけれど、やはり学術の次に重要というように考えられて来たようです。
若い獣医師の多くは、自然科学の勉強こそが重要で、社会学的な「ヒューマンアニマルボンド」は二の次、という感覚を持っているように思われます。これは、獣医学全般として考えたときに、獣医学とは別の「ヒューマンアニマルボンド」という認識はあって、その重要性は一番か二番かというように確かに言えるでしょう。
しかしながら、獣医学をそれぞれ対象動物のカテゴリー別に分類し、産業動物獣医学と伴侶動物獣医学に分けて考えた場合、後者の伴侶動物獣医学では、その目的あるいは存在意義そのものがヒューマンアニマルボンドであるのです。したがって伴侶動物獣医学では獣医学そのものとヒューマンアニマルボンドを切り離して考えてはならないのです。

 家庭内の飼育動物は、現在では単なるペットという認識を越え、コンパニオンアニマル(伴侶動物)として考えられています。これは動物に対する社会の態度が変化したことにより、社会が動物の重要性と価値を認めるようになったことが原因と思われます。
コンパニオンアニマルとは、人間の良き仲間、家族、伴侶として、ともに暮らす動物達で、正しいしつけとマナー、そして獣医学的なケアーを受けていることが大切です。それらの動物は、人と幸せな歴史をもってきたパートナーで、その動物の習慣や行動がよく分かり、その動物と人との共通の感染症が十分に調べられていて、人間にとっても安全であることがわかっています。そしてその動物の獣医学が十分に進歩していて、病気の予防、診断、治療に、獣医師が責任を持てることが大切です。

 人間とコンパニオンアニマルの絆をヒューマンアニマルボンドと一般に呼んでいますが、単に絆そのものだけではなく、その絆が人間社会および動物の双方にもたらす影響や意義をも含めてヒューマンアニマルボンドと呼ぶことが多いようです。ヒューマンアニマルボンドとは、人と動物双方の教育、福祉、医療に関わる重大な問題で、それが有効に作用した結果、人間も動物も幸せな生活が保証されるというものです。

 コンパニオンアニマルのための医療とは、言い換えればそこに存在する「絆」のための医療です。病気が単に治ればいいというものではなく、病気を単に予防すればいいというものでもないのです。絆を最良に維持することが大きな目的となります。
たとえば、ある治療を行ったとしても、それが絆にとって最良のものでなかったなら、絆の維持は困難になるからです。人と動物の幸せな絆を願う社会のニーズがあるからこそ、ヒューマンアニマルボンドがあるからこそ、人々は動物を連れて動物病院に来院するのです。したがって、獣医師はそのヒューマンアニマルボンドに応える仕事をしなくてはならないし、ヒューマンアニマルボンドを壊すようなことはしてはならないのです。
絆を最良に維持するということは、人と動物の関係が悪い方向に変わらないように配慮することです。また、たとえ動物が死んで絆が終了しても、人々の心の中に絆が残るようにすることが大切です。

 動物病院に来るということは、ヒューマンアニマルボンドがそこに存在するからです。すなわち、動物に対する愛情はみな同じようにあるからこそ、動物病院に来院するのです。したがって、獣医師はそこに存在するヒューマンアニマルボンドがどのようなものかを判断し、それに対して最適な治療を計画する必要があります。
同じ診断名でも病態は100もあるでしょう。すなわち、病態によって治療法は異なるものです。さらに、人と動物の関係には100通り以上あるでしょう。そうしたら、その絆に最適な治療をみつけなくてはならないのです。したがって、ある病気で動物が来院したとしても、すべて同じ方法では治療できないのです。Bond-Centered Practice、絆を大切にする医療では、家族の性格、動物の性格、家族と動物の密着度、動物の状態をすべて考慮して、その家族と動物の組み合わせに最良の治療法を探します。そして絆を美しく維持するように最大限の努力を払います。
寿命が人間より短い動物が、人間より先に死ぬのは避けられません。しかし、絆が突然終了しないようにするのも伴侶動物医療の役割です。また、何で死んだのかわからないというのも苦しみの原因になるものですので、正しい診断をつけることも大切です。動物が苦しむのをみるのも悩みになります。したがって生活の質を維持する治療も重要です。これが、がんのような完治が難しい病気を正しく診断し、治療する意義になります。治療不可能な病気でもケアーを行うことがクライアントのニーズだからです。
家族の一員だから、たとえ完治不能でも、苦痛の軽減、生活の質の維持を目指します。完治が望めなくとも、もう一度家に帰って、おいしそうに食事を食べることができる、普通の活動性や通常の元気があり、明るい顔で家族との愛情交換が可能であるとしたら、そしてこの期間ができるだけ長いものであれば、絆を大切にする医療は目的を達していると言えるでしょう。

 必ずしも教科書に書いてある最新の治療が常に正しいとは限らないので、獣医師はその動物と家族にとって最良の治療を探します。その上で獣医師が治療を計画し、いくつかのオプションを考えます。そして、家族と一緒に最良の治療を決める過程、これがインフォームドコンセントです。
伴侶動物医療は小児科医療と同じであり、必ず、「保護者」の同意を得る必要があります。動物だけでなく「保護者」も満足しなくてはならない、言い換えれば「保護者」と動物の間の絆を今まで通り維持しなくてはならないのです。そういった意味で常に「保護者」とのコミニケーションが大切で、押しつけではないインフォームドコンセントに基づき、獣医師と家族が共に考えながら最良の治療法を模索する過程、これが絆を大切にする医療の基本です。