会長ごあいさつ

第19回年次大会によせて

One HealthはOne Medicineと同義語で,人医療と動物医療を統合して医療は一つという認識であり,古くは1800年代後半に,近代医学の産みの親として知られるドイツの病理学者Virchowが人間と動物の比較病理学を提唱したことに始まります.その後,内燃機関の発明と普及により,荷車を引いていた家畜も少なくなり,動物と獣医師の社会における役割も変わりました.そして,一旦下火になっていたOne Medicineのコンセプトは伝染病学の分野で再度注目を浴びるようになりました.カリフォルニア大学デイビス校獣医学部の伝染病学の専門家Schwabe は,人間と飼育動物と公衆衛生が密接な関係を持つことを自らの世界中での研究から明らかにし,1964年刊行の著書“Veterinary Medicine and Human Health”の中で,人と動物の共通感染症へのアプローチは医学と獣医学が協力して行うべきと説きました.そして1984年刊行の同書第3 版において,正式にOne Medicineという認識を正式に表明しました.しかしながら,その時代の医学と獣医学の関係は決して対等のものでもなく,さらに大規模な動物実験が行われるようになって多くの実験動物が医学研究に使われ,獣医学側は動物の福祉を守ることで規制作りにも率先して参加したことから,自由な実験を行いたい医学側からは嫌われものでもあったようです.荷車を引く家畜がエンジンにとって変わられ,その結果世界が急速に「狭く」なり,感染症の急速な拡大もみられるようになり,それで人と動物の共通感染症の問題が新たにクローズアップされるようになりました.それにより多くの医師会や獣医師会がOne Medicineを取り上げるようになりました.すなわち,新興感染症の3/4 は動物由来であることが知られ,感染症制御の鍵は医学と獣医学の協調共同作業であることが,再度認識されるようになったのです.

獣医学は農学や公衆衛生を通じての社会貢献から,家族の一員,伴侶動物の命を守る伴侶動物獣医学としての貢献にシフトすることで,ヒューマンアニマルボンド思想が誕生し社会に受け入れられるようになって,獣医師の社会的地位も大きく変化しました.One Health,One Medicineの中での伴侶動物の重要性については,動物における各種の自然発生疾病が人間の疾患モデルであるという認識は古くからありましたが,直接的かつ長期的な重要性,すなわちヒューマンアニマルボンドが人間の健康に果たす役割についての研究や議論はまだまだ少ないようです.実際に,伴侶動物との生活が人間の健康に及ぼす影響については18世紀にはすでに言われており,Nightingaleは慢性疾患を持つ患者に幸福感を増すための小型ペット飼育を推奨したという記載も残っています.JBVPでは第1回大会から一貫してヒューマンアニマルボンドのための伴侶動物獣医学の重要性を強調し,われわれが学び,良質の動物医療を提供することが,人間の健康や福祉への貢献,すなわち社会への貢献であることを念頭に学術活動を続けてきました.今年の年次大会では,One Health,One Medicineといったキーワードを大きく掲げることで,われわれが医学から学べること,われわれが医学に貢献できること,そして社会に対して何ができるのかをもう一度考えようと思います.

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石田卓夫
一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム 会長

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